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計画的運任せの恋愛事情 2

            富永一樹と年上彼女の恋愛事情

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隣の枕元から かすれた声が聞こえる
「 カッキ起きてる 」
「 うん 起きた 」
昨夜は 彼女の誕生日を祝って このシティ・ホテルのレストランで食事を取り
その後 ラウンジでかなり飲んだ為 まだ酒が抜け切れてないようである
「 私 結婚する! 」
「 う~ん 誰と 」
俺は 冗談を返したつもりでいた
「 来週、お見合いするから 」
「 なに 言い出すんだよ 冗談にしても性質悪いぜ 」
「 だから カッキのこと振ってあげる 」
俺は 段々腹が立ってきた
「 それって どう言う事だよー ちゃんとこっち向いて話せよ! 」
俺は 枕に顔を埋めている彼女の肩に手を掛けた
「 見ないでよ! 」
尚も彼女を引き起こそうとする 俺に
「 見るな! バカ~! 」と枕を投げつけては またつっぷす
一瞬 泣き腫らした彼女の顔が 垣間見えた
俺は 少したじろぎ 息を呑んだが 言葉を続けた
「 なんでだよー 俺たち もう駄目なのか 」
「 ひとりで何でも決めんなよー 」
「 結婚するんなら 俺じゃ駄目なのか 」
「 出来ないの!! 」
「 カッキ、私の事どれだけ知ってる 」
「 ・・・ 」
「 それは 綾が教えてくれないからだろ 」
彼女は泣き腫らした顔を 徐に上げると 淡々と話し出した
「 私の実家は 観光ホテルをやっていて 長女の私が女将を継ぐ約束なの 」
「 今迄 好き放題 我がままを通してきたけど 」
「 25歳に成ったら 養子を迎えて 家業を継ぐって両親と約束してるの 」
「 だったら 俺が養子に入れば良いだけの話じゃん 」
「 何言ってるの あなた一人っ子でしょ 」
「 両親はどうするのよ! 今はお元気だから良いけど 」
「 年取った時は、病気になった時は、富永家のお墓の面倒は、どうするのよ 」
「 ・・・ 」俺は何も言い出せなくなってしまった
「 だから 今日限りでカッキとはお別れよ・・・ 」
「 レースはどうすんだよー 辞めるのか? 」
「 心配しなくても 他のスタッフには伝えてあるわ 」
「 カッキ、私の最後の我がままだと思って 先に出て行って 」
「 チェック・アウトは 私がするから 」
そう言うと 綾はうな垂れたまま その細い指先でドアを指し示した
俺は 黙って着替えを済ませ ドアノブに手を掛け 呟くように言葉を漏らした
「 俺のバースデイ・プレゼント 使えなく成っちまったな 」
「 大切に仕舞って置くわ だから もう行って! 」 
ホテルを後にし 見渡す風景は何処も彼処もセピア色に見えた
電車の駅に着いた頃、綾の顔がフラッシュ・バックする
もう一人の俺が 引き返すなら今しか無いぞと 囁く
だが その時の俺は
踏み留らなかった罪悪感と意地の様な物に行動を支配されていた
泣き腫らした彼女の顔がフラッシュ・バックする
           涙が落ちた 声は出ないがまた涙が落ちた
無表情のまま 改札を通り 電車に乗り込み 席に座り
俺は静かに目を閉じた 綾と出会った日の事を思い
 そして 電車の走行音のみが俺を包み込んだ
あの日は 河田レーシングのガレージで 自分の車のボンネットを開け
エンジン・ルームを覗き込んでいた時の事 後ろから 誰かが俺の肩を叩く
「 キミは これを取り付ける つもりなの 」
振り返ると 其処には ジーンズにカーキ色のブラウスを着た 彼女が立って居た
( わっ 典型的な日本美人だ 浴衣でも着せたら 艶ぽいだろーな )
彼女は 作業台に乗っているタイミング・ポイント取り上げると
「 フルトラなんか着けると EFI飛んじゃうわよ 」
「 チーフ、こっちに来て! 」
「 なんですかー? 綾さん 」
彼女に呼ばれ こちらにやって来るのは
俺の高校のOBで 此処 河田レーシングの二代目である
メカニック・チーフの河田俊介である
「 チーフ、此の子にちゃんと教えなさいよ!
          でなきゃ、此の子 フルトラ付けちゃうわよ 」
「 カッキ 俺んとこの 評判落とすなよ 」
「 ご指摘 ありがとうございます いゃー
         こいつは俺の後輩で自分の車を
                 趣味でいじってるだけなんですよ 」
「 カッキ ぼーっとしてないで 綾さんに挨拶ぐらいはしろ 」
「 どうも 富永一樹といいます 」
「 ふ~ん それでカッキなのね 」
「 カッキ、綾さんはこう見えて Aライを取って
 フレッシュマン・レースに参戦してんだぞ 」
「 だから お前なんかより 余程メカに詳しいんだ 」
「 私の紹介 未だだったわね
         名前は戸口綾 年齢不詳 趣味はカーレースてとこ 」
「 ところで カッキ、貴方 私と付き合わない 」
「 車って けっこうお金が掛かるでしょ お手当て出すから 私の運転手をしない 」
(  あっ そういう事か )
「 いいすけど 俺は プーじゃねーから 毎日は無理ですよ 」
「 構わないわ 私の運転手兼 つばめさん 」
「 それじゃ 早速 私を鈴鹿まで送ってくれる 」
「 今からですか? 」
「 ええ 今から 」
( なんなんだ! 此の人は
      いいとこのお嬢さんらしいが 随分と上から目線じゃねーか )
「 良かったな~ カッキ お前 綾さんのつばめにして貰ったのか 」
「 先輩、未だ居たんすかー 」
「 チーフ、私のランチャ出せる 」
「 何時でも出せますよ 」
「 じゃあ キーはカッキに渡して貰える 」
「 カッキ あそこに有る あの赤いランチャが綾さんの車だ、ぶつけんじゃねーぞ 」
「 ぶつけた方が 商売に成るんじゃないんすか 」
「 綾さんのレーシング・カーは うちが面倒見てるんだから
        綾さんに事故られる方が 余程 損失がでけーじゃねーか 」
「 あくどいすねー 」
「 ばか言ってねーで さっさと行って来い 」
ギュルーン、    バタン!    バタン!
「 カッキ 付き合ってくれて ありがと 」
横柄かと思えば 優しかったりもする彼女に 俺の好奇心がくすぐられる
「 ランチャ・ストラトスなんかに乗ってるのに 綾さんは何で運転しないんすか 」
「 私って 無類の方向音痴なのよね 」
「 だから 自分が今何処を走っているか判っちゃう 君の感覚が理解できないわ 」
「 いやー 俺も 営業廻り遣り出してから 道に詳しくなったんです 」
「 それに 男は太古の昔から狩りに出かける為に 方向感覚は不可欠でしょう 」
「 じゃあ カッキも肉食系なんだ 」
「 俺は 強いて言うなら 雑食系す 」
「 偏食しないんだ 」
そう言うと 綾はサイド・シートから にじり寄ると 俺の耳たぶを軽く噛んだ
「 あぶない! 」
「 綾さん、死にたいんすか! 」
「 カッキと一緒なら 此処で死んでも本望よ 」
( この女は 魔性の女だ・・・ )
「 方向音痴なら カー・ナビ付ければいいじゃないっすか 」
「 レーサーが カー・ナビに頼るって カッコ悪いじゃない 」
「 そういう問題でも無いと思うんですが 」
「 いいの これが私のポリシーなんだから 」
「 じゃあ 日頃の移動は 如何してるんですか? 」
「 ピット・スタッフの車だったり 時には電車で移動してるわよ 」
「 ランチャが泣いちゃいますよ 」
「 此の子はお飾りで良いのよ 昔から 一度乗って見たかっただけなんだから 」
「 俺には その感覚の方が理解できないっす
            車って 走ってなんぼだと思うんですが 」
「 いいのよ その分 レース場じゃ ガンガン走ってるんだから 」
「 そういう もんすかー 」
此の日以来 俺は度々 綾さんのレースに付き合うようになり
そして 何時しか 自然とピット・スタッフの一人として
レース生活にどっぷりと浸る 生活パターンが身に付いてしまった
その日は 綾が惜しくも二位でフィニッシュした 打ち上げの帰り
「 カッキ、手籠めにされたげるから 今日は貴方の所に泊めてよね 」
酩酊して 足取りの覚束無い綾の腕を肩に掛け 要約 家に戻ると
ひとりで歩こうとしない 綾をベッドに寝かせ
      新しい毛布を取り出しては それを掛けた
「 綾さ~ん 」 一向に返事をしない 
俺は 綾のベツド下の隣で肩肘を突きながら暫く横に成っていたのだが
 いつの間にか眠ってしまう
早朝、 綾は 寝ている俺の鼻を摘み
「 カッキ、この紳士気取りの小心者め 」
「 俺は酔っ払いを どう、こうする 趣味は持ち合わせてねーもの 」
「 演技よ、え・ん・ぎ 」
「 そうなんですか では 改めて お願いできますか 」
「 いゃーよ 」
「 だめよ 」「 やめてー 」「 くすぐったいってばー 」
綾と知り合って 五ヶ月目 俺は誕生日を迎えた
日頃は意識に埋没している歳の差も
    ひとつ歳を取ることで 綾に近くなった錯覚さえ覚える
その日は レースも無く
俺は仕事を終えると速攻で 綾との待ち合わせ場所へと向かった
綾の予約したレストランは 格式張った豪奢なものであった
俺はその日 自分の誕生日の記念として
    わざと意識して 初めて綾を呼び捨てにする事にした 
「 綾、俺、こういう所 落ち着かねーし 」
「 大人の修行だと思って 此の雰囲気に慣れなさい 」
「 こういう経験が 今後の貴方の糧に きっと成るから 」
そう言い終ると 綾は 自分のバッグから 小さな包みを取り出し
「 はい、パースディ・プレゼント 」
「 ありがとう、開けて良い 」
包みを開けると 中には
シンプルだがプラチナ製らしき ミラ・ショーンのキー・ホルダーが入っていた
「 ありがとう 大事に部屋に飾って置くよ 」
「 何言ってるの 物は使ってなんぼって 言ってたじゃない 」
「 でも こんなに綺麗な物でも 使っている内にキズだらけに成っちまうよ 」
「 キズなんか気にしないで 肌身離さず持っててくれる方が 嬉しいわ 」
「 さあ 今日はいっぱい食べてね 」
あの日 綾が言った 肌身離さずが脳裏に残っていた俺は
来月に迫った 綾の誕生日に チネリのレーシング・スーツを贈ろうと 思い立ち
河田先輩に相談して 色は赤を選び 左肩下にAyaのロゴを入れて貰う事にした
・・・
綾と別れて 本当の意味での存在の大きさを痛感する 日々が続いた
後日 河田先輩が
「 綾さん レースも辞めてランチャも売り払っちまった どういう事なんだ カッキ! 」
「 俺、綾とケンカ別れしちまった 」
「 バカやろう 俺が言うのもなんだが あの子はとてもピュアなんだぜ 」
「 ウン 判ってる 俺が悪かったんだ 」
誠司の部屋に居た!
「 長男と長女の恋愛は家が付いて来るだけに 難しいわなー 」 
今日は 振られ男の笑い話にすり替える為に此処に来た筈なのに
  俺はうかつにも おえつを漏らした
頭の中では後悔が渦巻く
( 俺の思考が稚拙だったばかりに 突き付けられた現実から逃げ出してしまった )
( 冷静に考えれば もっと選択肢があった筈だ
      なにも俺の代で 戸口家を継がなくとも 孫に継がせるとか )
( 俺にもっと包容力が有れば 綾を説き伏せることもできた筈だ )
( 安直な答えで終止符を打った 俺達は まだまだ幼過ぎたのだろうか )
真美が声をかけた「 カッキ 」
誠司が真美に目配せを送る
「 泣き虫カッキでも いいじゃねーか 」
「 カッキ、俺達は ちょいとメシでも食いに行ってくら~ 」




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by toxtu | 2017-02-20 21:46 | 自作小説
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